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2005/10/04

修学旅行 外伝

「先生、一番美味しいのは摘み食いでしょ」

八紘閣のご主人、小野塚さんが私の耳元でささやいた。

修学旅行その2で、新潟県の塩沢まで出かけていった時のお昼御飯である。魚沼産特Aクラスの新米を「糠釜・ぬかがま」という伝統的で手の込んだ方法で炊いてくれたのだが、私が写真を撮っているときにそういわれたのである。

(そう言われたって、そんなことできるわけないよなあ)
と思っていたところに、

「ほら、先生」

と杓文字(しゃもじ)に載せた米を私の目の前に差し出してくれた。

こうなったら受けねばならない。私は両手でお椀のような形を作り、その中に受け止めた。そして、慌てて口の中に含んだ。

そこでは、次のような展開があった。

1)熱いと思った瞬間
2)もっちり感が口の内側に伝わり
3)香りが鼻腔に広がり
4)ほーほーとその香りを味わっているときに、口の中に唾液が満ちてきて
5)噛み噛みすると、唾液で冷まされて適温になった米から、その滋養と味が口腔(こうくう)全体に広がる

というものであった。
ほんの少しだけ
(生徒諸君よ、すまん。先に味わってしまった)
と思ったが、圧倒的な米のうまさに私の思いは再び米に奪われてしまった。噛みしめるほどに、米に奪われていってしまったのだよ。すまん。

kome


                  ◆

米の炊き方は、「始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣くともフタ取るな」と言われるが、私が観察したところによると、もう少し細かい気配りがされていた。何かと言えば、

「米を釜の中で水平に入れる」

というものである。米と水の入ったお釜を糠釜に移すときに衝撃が伝わってしまったのだが、宿の方は、すかさずフタを開けて中の米が平らになっているかを確認していた。ちょっとした気配りだとは思うが、おそらくこういう点で米の炊きあがりは決定的に違うのであろう。

たぶん、何かをするにおいても、この「米を釜の中で水平に入れる」のようなことはあるのだろう。が、それが素人にはなかなか見つからない。そこが見つけられるのがプロであり、見つけるために日々の積み重ねが必要になるのだろうと感じていた。

火をくべてからは、最初に強火で10分、次に遠火で10分、最後に蒸らしに10分という三段階で炊きあげていた。件(くだん)の小野塚さんは、

「この三段階が分かると、米はどこでも美味しく炊けるようになるんだよ」

と君たちに話しかけていたが、君たちはしっかりと聞けていたかねえ。お腹が空いてそれどころではなかったかな。真実の言葉短く、そして突然訪れるのだよ。

                  ◆

米の水加減、山の風と雨の関係、花の咲いた冥加(みょうが)の行方、天空米、涙の訳と書きたいことは沢山(たくさん)ある。

が、それは君たちの書く作文に任せようと思う。

良い修学旅行でした。

(教科通信「志学」 NO. 19 より)

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