今年は、受講生の数が多くはないので少し丁寧に対応する事ができるかなと思います。
一回目の授業ですので、みなさんがマッピングのメモに書いた感想についてコメントをしましょう。
◆
S1 メモを取りながら聞いたので、”聞こう”という気持ちが持ててよく理解できたように思います。書くのが遅いので耳と手が合わなくて聞きのがしてしまったところがあるかも知れないです。とても興味深いお話でした。
T 教育の世界にある有名な言葉の一つに、「Aをさせたいのならば、Bと言え」と言うものがあります。例えば、書道の授業中に静かにさせたいときに、「静かにしなさい」と言う指導言は、「Aをさせたいときに、Aと言う」という例です。これでは、子どもは動きません。
そうではなくて、「軽く息を吐いて、息を止めてから筆を動かすと筆先がぶれなくてよい」とBを示すと良い訳です。息を止めながら話す事はできませんから。このことが書かれている本としては、
『教育新書67 AさせたいならBと言え 心を動かす言葉の原則』(明治図書 岩下 修著 1988/12/1 18版 定価:1,323円(税込))
があります。18版ということからも分かるように、学校現場の先生に読み継がれている本です。
◆
S2 今日は、これまでの教職の授業とは違う内容で楽しく授業を受けることができた。
T 授業は、同じような内容を教えるにしても先生によって違う事が多くあります。それだから面白いし、難しい。だから、指導の技術と人間性を高める努力をする必要があるというわけです。いろいろな先生から学び、あなたの中の先生像を育てていく事が大事です。
◆
S3 授業に集中させるための技法の一つがこのマッピングメモだと感じました。集中する授業作りの一部を見ました。話術にも”おっ”と思うところがありました。
T 授業というものは、種も仕掛けもあるものです。高校生までのあなた達は、その種も仕掛けも分からなくても良かった訳ですが、教師を目指す以上は大学の授業であってもその授業の種や仕掛けを想像し、やがて創造できるようにならなければなりません。
「話術にも”おっ”と思うところがありました。」とありますが、何があったのでしょうねえ(笑)。ではありますが、もし(これは使える)と思ったのならば、是非使って使えるようにして下さい。
◆
S4 メリ・ハリがあって分かりやすかった。まだメモの取り方が下手なので、上手くまとめられないが、自分なりにまとめられるようになりたい。また、どう授業を始めたら良いのか少し分かった気がする。
T 今回のメモ(ノートテーキング)は、たくさんの情報を効率よく取ることを目的としました。私はメモには、
1)記録のメモ
2)思考のメモ
3)まとめのメモ
の三種類があると考えています。
マッピングメモ*1は、このうち基本的に1)のメモに対応しています。指導の段階としては、次に2)のメモを行うことがありますが、1)と同時に2)ということもできるようになると良いですね。これについては、授業で触れたいと思います。
*1 私はマッピングメモと言っていますが、一般的には「ウェビング」とか「マインドマップ」と言う言い方をすることが多いです。「マインドマップ」は、『人生に奇跡を起こすノート術—マインド・マップ放射思考』(トニー ブザン (著), Tony Buzan (原著), 田中 孝顕 (翻訳) 価格 ¥1,575 (税込))などの本があります。興味があったら読んでみて下さい。
◆
S5 すごいテンポが良い授業で、メモを取るのも大変だったけど、「授業」というものがすごく分かった気がしました。二回生より、教師の仕事というものが身近になった授業な気がしました。
T 嬉しい感想ですが、授業がどのようなものと分かったのか教えてくれませんか。いえ、興味があるんですよ。よろしくお願いいたします。
◆
S6 今まで授業開きについて考えた事などなかった。短い時間で言いたい事を伝えるのは難しいと感じた。これから国語の授業ができるように、勉強していきたいと思った。
T 限られた時間の中で行うのが授業なので、準備、構成をしっかりと行ってから臨む必要があると思います。授業を作るための4要素は先日の授業で説明した通りですが、それぞれを授業をする本人がしっかりと理解していないと、伝える事は難しいですね。
ちなみに、『効果10倍の〈教える〉技術 (吉田新一郎著・PHP新書)』には、以下のように書いてあります。これは京都の凄い小学校の先生である糸井先生のHP(学校に新しい風を http://susumu.exblog.jp/)にありました。
引用開始 ーーーーーーーーーー
しかし、約2500年前にあの有名な老子は「聞いたことは忘れる。見たことは覚える。やったことは分かる。」と言ったそうです。うまい話は、いくらでもその時は分かった気にさせてくれますし、いいノートも取らせてくれますが、それらが活かされることはほとんどなく、忘れられる運命にあります。
ちなみに、「見たこと」もあまり当てにはなりません。例えば、私は感激して見た映画やテレビなどすぐに忘れてしまいます(おかげて何回も新鮮に見ることができますが)。
その後、大分後になってですが、「見つけたこと(発見したこと)は、できる」と付け加えた人がいます。ちなみに、この老子が言ったことを数字で表したアメリカの研究者がいました。それは次の通りです。(数字は、記憶に残る割合を表しています)
聞いたことは、 10%
見たことは、 15%
聞いて見たときは、 20%
話し合ったときは、 40%
体験したときは、 80%
ここまでは、老子が言ったこととだいたい合っています。それでは、「見つけたこと(発見したこと)は、できる」のレベルは、どのような体験に相当するか想像がつきますか?
教えたときは、 90%です。
引用終了 ーーーーーーーーーー
この国語科教育法では、教える事で身につけるというワークを取り入れたいと考えています。
◆
S7 マッピングメモを今回初めてしました。ただ授業を聞くだけでなくこのやり方をすると自分の頭でどう整理したらいいかなども分からされた気がします。先生は授業は(ママ)すごく引きつけられたのでこんな授業ができたらと思いました。あと少し高校や中学の授業を受けているようで懐かしい気分でした。(笑)
T 通信にも書きましたが、去年まで中学校の教師をしていたので急に大学の先生の授業をするということはできそうにもありません。いや、ひょとしたらしないかもしれません。自分にあった授業のスタイルというものがあり、そのスタイルを確立するのに時間をかけてきた訳ですから、それを大学の先生になったからと言って変えてしまうのは、リスキーではないかと思っています。
この辺りは、自分の授業スタイルをこれから作っていくみなさんには分かりずあいかもしれませんが、割と大事な事だと思いますので、ちょっと心に留めておいて下さい。
◆
S8 大学で当てられる授業というのがあまりないので緊張してしまいました。辞書をすぐに引くより、まず考えろといわれて普段自分があまり考えて生活してないかもしれないと感じました。今までただ知識の蓄積だけの勉強でしたが、今日の授業で教えるための勉強をしなければならないと思いました。
T 学校現場ではインターネットを使った調べ学習が盛んに行われていますが、これはちょっと違うのではないかと私は考えています。分からない事柄があったらすぐにインターネットに飛びつく。確かに調べる習慣はつくでしょう。そして、正解らしきものも手に入れる事ができるでしょう。
しかし、考える力は育たないのではないかと思います。
失敗学の畑村先生の本だったと思いますが、ある会社の社長とお話をしている時に、
「このビルの階段は何段ありましたか?」
という質問をされたそうです。その時に、
「わかりません」
と答える人は採用しないのだそうです。
(えっと、この部屋の高さは2メートルぐらいで、階段の一団が20センチぐらいだから、階段の数は・・・)
と自分の手元にある情報で類推し、仮説を出せる人でないと採用しないのだそうです。
みなさんは、20年以上も生きてきて、勉強してきています。自分でも気がつかないほどの情報量を頭の中に既に溜め込んでいます。ですが、それを活用する練習が不足しているのではないかと思います。知識が知恵になっていないのですね。
疑問があったら、
1)メモする
2)自分なりの答えを出す
3)調べる
という流れで自分を訓練して下さい。それが、学校教育現場で突然襲ってくる指導の場面でなんとか切り抜ける力を育てていく一つのレッスンにもなると思います。
◆
S9 初めは先生が言った事を全部書こうと思ったけど、そうすると、ずっと下を向いてばかりだし、書く事が多すぎて頭の中もぐちゃぐちゃになってくるので、大事だなあと思ったことだけを書いて前を見るようにしました。難しい授業かと思ったけど、少し、楽しかったです。
T (を、この学生さんは前を向いて話を聞いているな)
というのは、私にも伝わってきましたよ。授業の中でコミュニケーションを取ろうとする姿がありましたね。
メモを取る時に
1)ひたすらメモ帳に視線を落として書き続ける。
2)時々、顔を上げて話し手を見ながら書く。
3)話し手を見ていて、書く時だけ下を見る。
というパターンがあるのですが、上級者になると
4)話し手を見ながら、手元を見ないでメモを続ける。
というものもできるようになります。ここはディベートのレッスン等でやりましょう。
◆
S10 マッピングメモははじめてだったのと、字を書くのが遅いので、メモを取るのに苦労しました。でも、メモを取る事は凄く大事な事だと思うので、なれていきたいです。集中して受ける事ができたので、時間が早く過ぎました。
T 書道を学んでいたり、国語が好きな人は、字を雑に書くという事に抵抗がある人がいるかもしれません。だから各スピードが遅くなる訳です。
ですが、なにを優先するかという事です。情報を記録するためものメモは基本的には自分が後から読んで分かれば良いわけです。他人が理解できなくてもかまいません。スピードを優先して多くの情報量を手に入れるメモの場合は、どうしても字が乱れます。しかし、それはそれで良いのです。
ゆっくりと書いて美しさを優先する手書きもあります。その時は美しさを優先させれば良いのです。私の場合、黒板に書くときは三つのフォントを使い分けて書くようにしています。
ただ、生徒に指導する時は
「雑な字を書き続けると、美しい文字に戻れなくなる場合があるのできれいに書く事」
と言う場合もあります。
◆
S11 おそらく、初めてマッピンング形式での学習をしたのですが、うまくコンパクトにまとめることができず、やってみて難しかったです。でも、こういった授業、または先生の授業はメリハリがあって、緊張感もあって、集中して取り組む事がでたし、楽しかったです。先生のじがとてもきれいで読み書きしやすかったです。
T 書道科の諸君に字を褒められるのは嬉しいなあ(^^)。コンパクトにまとめることの難しさを書いていますが、生徒が感じるであろう難しさを実感できたのではないかと思います。
さて、では、どう指導したらその難しさを子どもたちが感じる事なく、または、今よりも少し優しく感じるように指導できるでしょうか。考えてみて下さい。
◆
S12 私が中学校の時や高校生の時の国語の授業は、指導要領にそったような授業だった気がするので、楽しいとか感じることがなかった。だから、私はこの授業で国語とは楽しいと思えたり、生徒を引き込めるような授業ができるようになりたいと先生の話を聞いていて思った。
T 二つの事を述べます。一つ目は、学習指導要領に沿った授業が悪いという事ではありません。逆で、学習指導要領で規定されている内容は教えなければならないことです。
私が授業で言いたかったのは、生徒の実態を考える事なく、教えるべき内容をただ教えているというスタイルの授業です。こういうのを「上からの道」と言います。これはこれで一つの方法です。
しかし、この方法だけで授業が上手く行く事が難しくなっている今、生徒の実態から授業を作りしかも学習指導要領の内容を十分に満たしているという「下からの道」という方法です。下からの方が大変ではありますが、面白くなる可能性、生徒が学習意欲を持って取り組む可能性が高いという事です2 。
上からも下からも授業が作れるようにする事が大事で、生徒の実態合わせてどちらか、またはどちらも使いながら授業を行う事ができるようになる必要があります。
二つ目です。楽しくなければ○○でない!という言い方が一時期はやっていたような気がします
が、この○○の中に授業が入るということもありました。私はこれに対して、いくつかの考えを持っています。
まず、楽しいについて。楽しいは、ファニイ、インタレスティング、エキサイティング、クールなどの英語が当てはまると思うのですが、上記の「楽しくなければ○○でない!」という時の楽しいは、どうもファニイであることが多いような気がします。
ファニイの楽しさを授業でやったって意味がないと思います。授業ではインタレスティングの楽しさ出なければと思います。
次に、んじゃあインタレスティングならいいのか、という問いが立ちます。私は、インタレスティングは当たり前で、その次に、ノウレッジやスキルが身に付いているかどうかが大事だと思っています。
まとめると、ファ二イから入っても良いのですが、インタレスティングにたどり着き、知識や技術を手に入れる授業でなければならないのではないかということです。
◆
とまあ、思いつく事を書いてみました。抽象的な説明もあるので、何の事だか分からない部分もあるでしょう。それについては授業中においおい理解する事にして下さい。
なお、紹介した本は是非読んでみて下さい。学生時代に読み進めることが、あなたの将来の授業の基礎を作ります。
(国語科教育法通信「修学」 NO.2〜5 より)