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2006/12/31

彼女に最初に会ったのは

12/30

彼女に最初に会ったのは、私が高校三年になる春休みだった。四月から使う教科書を買いに高校に行ったときであった。

そのとき、仲間から凄いことを聞いた。なんと薬師丸ひろ子が、いま「翔んだカップル」の映画撮影でここにいると言うのだ。しかも、サインを貰えると言うのだ。

慌ててサインをしてもらえるものを探す。が、ない。
ないので、教科書にしてもらうことにした。ということで、私の現代国語三の教科書には、薬師丸ひろ子のサインがあるのだ。楷書体のかちっとした字だった。

特に彼女に興味があったわけでもなかったので、正直そのサインを手にしても、
(フーン)
であった。人気のある人のサインを貰ってみたかっただけかも知らない。今からだとそう思う。

で、そのときに初めて彼女を見た。「翔んだカップル」の杉浦(村?)さんの役をやる女の子だと言う。サインが書かれた教科書を受け取りに行った、いつもは私達が授業を受けている教室の「控え室」に彼女はいた。薬師丸ひろ子のサインのある教科書の別のページに、サインをしてもらい握手をした。

とっても小さくて、とっても柔らかくて、とてもあたたかい手であった。
太い眉毛に柔らかな瞳。
(いや〜、芸能界って凄いのね。こんな子がいるのね)
いたく感激した。

彼女の名前は、石原真理子である。

            ◆

それから彼女のことを何とはなしに追いかけるようにテレビも見ていた。ドラマでも
(を、出ているな)
(ん、少し大人びたな)
なんてぐらいである。

それからいろいろなスキャンダルに巻き込まれたり、巻き込んだりして、彼女はどこかに行ってしまった。写真集を出したが、買うこともなかった。そして、今年は例の暴露本である。ああ、あの時の彼女はどこに行ってしまったんだと思った。

芸能界なんかに巻き込まれなければ、彼女は彼女のままでいたんじゃないかとも思った。

            ◆

で、その彼女に昨日会ってしまった。
所用があって渋谷の街を歩いていたのだが、渋谷のロフトの前の交差点で信号を待っている時である。

渋谷のみそかである。そりゃあ、凄い人であった。が、私はその信号待ちの人ごみの中に彼女を一瞬で見つけてしまった。で、バシッと目が合ってしまった。ほとんど、織田哲郎の名曲、「ルーシーマイラブ」である。って、誰も知らんだろうけど。

その瞬間彼女は、その信号待ちの人ごみとは反対方向に歩き出していた。
(ああ、なんか用事でも思い出したのかな)
と思ったところ、彼女はそこに立ち止まり信号が変わるのを待ち続けた。
(ん?)
と思ったときに信号が変わった。私は駅の方向に坂を下って行くつもりであったが、彼女のことがちょっと気になり見ていた。すると、彼女は信号が青にならなくて行ける方向、駅に向かって右側、スペイン坂方面に向かって、一人で、歩いて行った。

その間30秒ぐらいであろうか。
あんなに人が多い中に、白い帽子、白いコート、少し短めのスカートを履いてロフトの黄色いビニール袋を持っている彼女が、その渋谷の人ごみの中に隠れてしまっていること、周りの人がまったく気がつかないことに、驚いたり、当たり前のように思ったりしながら、一人で、歩いて行く彼女を見ていた。

            ◆

それは、彼女のオドオドした瞳が気になったからである。誰かに見つけてほしい、だけど、大声をあげられたりしたら困る。一人で時間を過ごすのは嫌だけど、普通の一人として扱われるのは嫌。私は特別な人間なの。そんなことを訴えているような瞳、体の固さが気になったのだ。

そりゃあ、年齢がくれば変わる。人は変わる。
だけど、残酷だなあと思った。
あのあとの20数年がこんなふうに人を変えるのか。

年末の渋谷の街で、目が合った一人のオジさんが、実は、あなたがデビューした時に握手をしたことのあるオジさんであるなんてことは、彼女はまったく分からない。
彼女はこれからどうやって過ごすのかなあと思いながら、私は新宿に向かった。

人生は味わい深い。

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