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2008/08/13

8/11 三日目 人間的成長

8/11

ジャッジは9時に集合。スタッフは8時半に集合だから、ありがたい。

今晩は今日までとは違うホテルに泊まるので、荷物をゴロゴロ引きずりながら白山の坂道を上る。今日で今年のディベート甲子園も終わりかと思うと、切ない。

到着と同時に、本日のジャッジの分担が発表される。ディベート甲子園では、なんとか審判による判定の偏りがなくなるように、あれこれ工夫されている。それは、

1)ジャッジは、自分の所属している支部の学校の試合は、判定しない。
2)ジャッジは、一度試合を見た学校の、同じサイドの試合は、判定しない。

という基本原則がある。

この基本原則に則って、ジャッジを配置するのが試合運営委員である。1)2)の原則を元に行うのであるが、対戦している学校の勝ち進み具合によって、ジャッジができたりできなかったりするので、予定通りには行かない。だから、試合直前にならないとジャッジが最終決定しない。

この仕事を今ではディベート甲子園OBの社会人がやってくれている。しかも、エクセルのマクロで半自動化して組めるようにしてある。後生恐るべしである。

私は、中学校準決勝の主審となっていた。
この試合のどちかが勝って決勝に進出なわけで、ということはほとんど決勝の審判はない。今シーズンのディベート甲子園の最後のジャッジとなると思った。

実は、この大会で主審ジャッジを務めることになったら、すべての試合で言おうと大会前から決めていたことがあった。そして、今回の大会で主審を務めた時すべて言ってきた。それをこの試合では、十分な必要の下に言うことになった。

この試合の一部の質疑の部分で、コミュニケーションに関してディベートととしてよろしくないやりとりが行われた。この部分について
(きちんと言わなければなあ)
と思っていたところ、試合後一緒に判定をした多くのジャッジからも、あれは良くなかったという指摘を受けた。

私はしっかりとコメントしようと決めた。

『肯定側否定側のディベーターのみなさん、ご苦労様でした。この試合に勝ったチームが決勝に進出します。そういう意味で、ジャッジたちは君たちに強く注意をしなければならないことがあります。ジャッジは悲しい思いでいます』

とコメントを始めた。それは、細かい言葉の揚げ足取りになってしまっているような質疑が見られ、お互いを尊重して議論を通して一つの高見に上ろうとする姿が見えにくくなっていたことについてであった。

『ディベートは、相手がいなければ成立しません。相手が自分たちの議論を検証してくれる事で、その検証の結果をジャッジに伝える事で成立します。相手を直接否定する事、揚げ足を取る事で成立するものではありません。相手のおかげでディベートが成立するのだと言う事を肝に銘じるべきであります』

その後、判定の理由を述べコミュニケーション点を告げたあと、判定の前に言うと決めていたその言葉を述べた。

『私たちジャッジは、ディベートのこの論題を通して、大会の一つ一つの試合を通して、君たちが人間的成長を遂げる事を願ってジャッジをしています。勝ち負けの向こう側、いや勝ち負けの土台として、ディベートから君たちが人間的な成長を遂げることを心から願っています』

私たちは、生徒たちにディベートを通して、まさにこの人間的な成長を期待しているのである。ディベートは勝ったり負けたりする。それは、ディベートがゲームである限り当然である。しかし、これはプロの仕事とは違う。教育の文脈で行っている活動である。だから、人間的な成長を求めているのである。それをしつこく生徒に伝えようと思い、今年はこの言葉をすべての試合で言おうと思ったのだ。

(あ、また池田ジャッジは同じ事を言っている)

と思われる事が大事だと思ったのだ。そのぐらい記憶に残るぐらい話して、ちょうどいいのではないかと思ったのだ。

試合後、会場で見ていた多くのジャッジに声をかけていただいた。

「池田さん、ありがとう。よくあれだけキチンと言ってくださった。全く同感です」

言って良かった。試合を判定するジャッジも、試合を見ていたジャッジも、ジャッジの思いはみな同じだ。

中学校の決勝があり、高校のベスト6に進出して決勝に出られなかった学校によって行われた即興ディベートがあり、高校の決勝がありと大会最終日は、切なく愛しい時間が過ぎて行った。

ここに至るまでのディベーター、チームの仲間の準備、顧問の先生の指導、親ごさんたちの協力などなどを考えると、実に気の遠くなるような時間と内容を容易に想像することができる。その一つのゴールがここである。さまざまな思いがここに凝縮されている。これが一つずつ終わる。愛しく切ない時間であった。

試合後、歌人で元東洋大学の学長先生が、若者の感性と言葉に関する講演をしてくださった。これが良かった。東洋大学では20年前から若者の百人一首を決めている。毎年百首決めるのだが、今は6万通もの応募があるとのこと。その歌集の20年分の短歌から選りすぐりの歌について、解説をしてくださったのだ。

私も10年ぐらい前に、この歌集の存在は知っていていくつかの作品は読んでいたのだが、こうして主催している大学で、和歌の専門家の先生に解説を受けることができるとは思わなかった。

そして、これが実にいい講演であった。淡々と作品を紹介し、
「この作品は、ここを味わいたいと思います」
「この作品に、○○を読み取りたいと思います」
「ということで、この作品は三重丸なのであります」
とコメントを入れて行かれるのだが、作品の良さと相俟ってなんとも胸に響いてくる。

講演の後、イクトスさんと話したのだが、
「よかったよねえ」
と話しつつ、お互いに泣いてしまった事を暴露し合った。ああ、おじさんになっているなあ。同級生はいいわf(^^;。

その先生が質問に答える形で示されていた、いい短歌の作品を作る方法である。

1)一つの気に入った歌集を暗記するまで読み込む。
2)一つでも多くの作品を作る。
3)作った作品は、5年以上作品を作っている先達に批評を受ける。

うーん、多くの物に当てはまるなあと思う。ディベートだってその通りだ。いやあ、実にいいお話であった。

お話の後、高校の部の決勝の講評と判定があった。岳南亭さんだ。大役を見事に務められていた。その後に表彰式や個人賞の発表、主催者からの挨拶、理事会、会場の片付けなどなどが続き、大会は幕を閉じて行くのであった。

理事の退任や新しい理事の専任などスタッフの交代もあった。私も一つの役職を引き受けることになりそうだ。ディベート甲子園、また、来年だ。

私は今日の宿の神田に荷物を置きに行くために、一足先に大学を後にした。

「人間的な成長」についてもう少し語っておきたい。大会終了後のお疲れさまの会でスタッフに話した事だ。

私がこの大会ですべての試合で言う事を決めていたという話をした後に、なんで「人間的な成長」なのかといことについても話をした。

ディベート甲子園は、今年で13回目を向かえた。そのスタート前のことである。私たちには田畑寿一という仲間がいた。神奈川の中学校の社会科の教師で、ディベートがまだストックイッシュー方式を採用していたときに、反駁で議論を噛み合わせるための工夫として「反駁シート」というものを開発した仲間である。

その彼は、これからいよいよディベート甲子園が始まるという直前に、急逝された。私たちは我が耳を疑いながら、告別式に駆けつけた。田畑先生が担任をされていた生徒たちは泣き崩れ、それはとても悲しい時間であった。

その後、クリスチャンであった彼の人となりを教会の司祭が語られた。

「田畑先生は、お祈りのときにいつも三つの事を祈っていらっしゃいました。家族の健康、世界の平和。そして、生徒たちの人間的な成長です」

私は、この言葉を強く心に刻んだのだった。

ディベート甲子園が勝利至上主義のような傾向が見られるようになっていくのを、私たちジャッジは悲しい思いで見ている。

そうじゃないと強く言いたい。ディベートを通して生徒たちが育つことをめざしているのだと言いたい。そのとき、強く言うための言葉を、私はこの数ヶ月探していた。そして思い出したのが、田畑さんの「生徒たちの人間的な成長」であった。

今のディベート甲子園のメンバーは、田畑先生のような方がいた事を知る由もない。しかし、彼がいなければ私たちのディベートに関する研究は進まなかったし、今日のディベート甲子園は存在しなかったであろうと私は思っている。そんな先生が大切にしていた言葉を、今のディベート甲子園に参加している生徒たちに、田畑先生の代わりに伝えることは、いまディベート甲子園に関わっているあのときからのメンバーの責任ではないかと、私は思うようになってきている。

さすがに一つ一つの試合の判定のときに、田畑先生のことを語る時間はない。だから、せめてジャッジやスタッフたちには知っておいてほしいと思い、ご苦労さまの会では言っておこうと思って、このことを語った。

(寿一さん、ごめん。13年も掛かっちまったぜ。でもやっと伝えたよ)

そんな思いだった。

大会に関わり、このご苦労様の会に参加した一人一人が、大会に関する思いを語り、このご苦労様の会に来たくても来れずに帰ったメンバーのことを語り、感謝し合って、ご苦労様の会は終わった。

大学生になったディベート甲子園OBOGたちは、少ない小遣いを捻出して遠くから会場に駆けつけてくれている。社会人になったディベート甲子園OBOGたちは、少ない夏休みをこの大会の運営に使ってくれている。

スポンサー、大会関係者、協力してくださるさまざまな方たちのおかげで、こうして今年もディベート甲子園は終わる事ができた。

また、来年だ。

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コメント

 昨日は大変お世話になりました。夕食時まで有意義でした。

 昨日も聞きましたが、主審としての先生が為されたコメント、そして、その話を若手OBOGに伝えてくれたことに感謝です。

 知っている人が伝えなければ、伝わりませんし、理解してもらえないでしょうから。そして、この内容は、貴い内容だと思いますから。

 これからもどうぞよろしくお願いいたします。

今日の記事を読み、共感いたしました。自分もこのために活動にエネルギーを注げていると思います
し、それを感じるからこそ大会で敗れても清々しい気持ちになれるのだろうと思います。さすがに今シ
ーズンの活動は自分の意図が伝わらない部分があり、大会後に考えさせられることがあったのですが、
自分のブログ中でも先生の記事をぜひ紹介したいと思います。
 
 何度かリンクを貼っていただいているので、大丈夫かと思うのですが、一応お断りをしておきます。
それでは、来年もまた東洋大学でお会いできるように、自分自身も成長していきたいと思います。

 池田先生が控え室で仰られていたこと・・・その通りに準決勝で講評をされたこと、心に染み入るように感じながら、拝読いたしました。
 まだNADEといわずに「連盟」という通り名で呼んでいた頃から、茨城のO先生、女子聖のC先生、八潮のK先生、豊島のK先生、墨田川のS先生・・・に教えを乞いながら、ディベート甲子園の未来について議論をしていた頃を思い起こしました。
 私たちは人間的成長のために、指導をしている。
 生徒の可能性を引き出すお手伝いをしている。
 その気持ちを、忘れずにいたいと思います。

>NAKO-Pさん

甲子園の後、ネットワーク大会までお疲れさまでした。すべてが終わってから、仙台駅前で美味しい牛タンの店をご案内いただきまして、充実した時間を過ごすことができました。

こんな話を私がするような年齢になったのだなあと
、自分ではちょっとびっくりの部分もあるのですが、よく言ってくれたという声を多く頂き、話して良かったなと思っています。

教師としての仕事が40年として、もう15年もディベートに関わっているわけです。これからもよろしくお願いいたします。

>s水さん

選手諸君は、それは勝ちたいという思い出いっぱいでしょう。それはそれで自然です。

ですが、指導者や大会関係者はそれではなく、一つ別のというか、本質的な立ち位置、すなわち教育の一環ということを念頭に入れて指導に当たるべきだと考えています。

野球でも剣道でも書道でもテニスでもバンドでもいいのですが、これを通して人間的な成長をしてくれればと願います。そして、せっかく子どもたちがディベートに出会ったのならば、ディベートコミュニティにいる私たちが、面倒を見ようと思うのです。

体を十分にお休めください。また来年東洋大学でお会いしましょう。

>山中君

立ち上げの頃の熱は、それに関わっていた私たちにとって、それはそれは刺激的なものでした。この時代に生まれつつ、教育界の明治維新を体験できるのかと身震いしました。そして、組織を動かし始めました。

いま私は、ここで人間的な成長を遂げてきたOBOGのみなさんが、こうしてNADEに関わりながら、さらに後輩のためにあれこれと頭と体を動かしつつ、少しでもいいものを提供しようとしている姿に、やっぱり感動しています。

これからの運営には、次から次へと中興の祖が必要なのだと思います。私は運営に関わって15年です。次の世代が成長して行くのをとてもうれしく思っています。これからもよろしくね。

こんにちは。はじめまして、私、田畑寿一の息子、田畑興です。たまたま今日、ふとインターネットで父の名前を検索したところ、この記事を見つけました。私が三歳の時に父は他界しましたので、なかなか父がどのような人物であったのか、とくに教師としての姿を知る機会はいままでありませんでした。しかし、今日この記事に出会い、六年前ではありますが、いまだに父のことを想ってくださる方がいたこと、息子として本当にうれしくおもいました。
もし、よろしければ父のことをもう少し詳しく教えていただけますか。
メールを頂けたら幸いです。

寿一さんの息子さんから書き込みがあるとは。ブログを書いていて良かったです。時空を超えるインターネットの素晴らしさをしみじみ感じています。

私たち全国教室ディベート連盟の設立時のメンバーにとって、田畑先生は本当に大事な仲間です。いまでも、でしたではなく、です、です。

詳細はメールで送りました。
繋がりができたらとても嬉しいです。

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