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ディベート甲子園三日目。ベスト4に残った中高8校が今日頂点を極める。また、切ない夏が一つ終わるのかと思うと、朝は少しかなしい。
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私は今年は中学校の準決勝の審判が最後の審判であった。
判定は3対2に割れる結果となった。立論の作りと、議論の決定打のありようが、この差となったと言える。
ディベートは、圧倒的に勝つことを求められる。ジャッジの票が割れるというのは、ジャッジが議論の評価をしてしまっているということである。
誤解の無いように話せば、ジャッジは議論の判定をする。しかし、これはジャッジがストーリーを作るのではなく、ディベーターが主張し論証したストーリーをジャッジが受け入れるかどうかということなのである。受け入れた方に投票する。つまり、投票された側が勝ちになるのである。
ディベートは、ジャッジを説得するゲームである。
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三年前から、即興ディベートというものが大会で行われている。ディベート甲子園のディベートは、政策論題で2月に発表された論題を十分に調べて議論を組み立てて戦うのであるが、もう一方で即興で行うディベートもあるのである。
このディベート甲子園では高校生のチームで決勝トーナメントに出たチームの中で決勝戦に行くことの出来なかったチームの中から、参加校を募り、行った。
今年の即興ディベート決勝は、なかなか良かった。
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論題は【日本は自転車に運転免許制度を導入するべきである】であった。
肯定側は、500円の費用を掛けて免許を取得する政策を提案した。教育をするというのである。否定側は、悪いと分かっている人には500円でやっても意味がないという議論を展開。
そして、否定側の第二反駁で、「500円あれば、今日お昼に食べたスパゲティが食べられるのですよ。意味のないプランに500円使う必要はありません」と言って会場から拍手を貰っていた。ディベート甲子園では昼ご飯が500円のチケットで食べられるのである。それを使っての反駁であった。
これで否定側にぐっと流れが行ったかと思った。
ところが、肯定側の第二反駁は、こうはじめた。「話を本筋に戻しましょう」。凄かったなあ。会場の空気が一瞬にして戻った。「500円で人の命が救われるのです。安全性が高まるのです。スパゲティ一回分で出来るのです。やりましょう」と反駁であった。
肯定側の勝ちであった。
「話を本筋に戻しましょう」は、これからディベート甲子園の決め台詞の一つとして、残って行くのではないかな。
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そして、高校の決勝である。
【日本は、一院制にすべきである】という論題である。
この試合は、肯定側早稲田大学高等学院、否定側東海高校である。
私がぐっときたのは、第二反駁である。
「この議論に決着をつけましょう」
と第二反駁の生徒は言った。
第二反駁は、いままでの議論を振り返りつつ、価値の比較を行う。肯定側と否定側で議論がぶつかり合ってその行方が見えなくなっていた争点に関して、このように宣言してからスピーチをはじめたのだ。これはなかなか良かった。
さらに、「勇気ある1秒」である。
「では、次に否定側のフローシートをご覧下さい」
と、次のスピーチが否定側に関するものであることをガイドする。これは、サインポスティングと呼ばれる手法で、いまどこの議論に触れているのか、触れようとしているのかを示す、話し言葉で行うディベートにとってはとても大事な技術である。
この技術を使うディベーターは、比較的多い。しかし、彼はそれだけではなかった。この「では、次に否定側のフローシートをご覧下さい」を言った後、ジャッジが否定側のフローシートを用意するまで、1秒間待つのである。
4分の持ち時間の1秒である。とても短い時間である。しかし、持ち時間が区切られている中で、意図的に無言で1秒待つには相当の勇気が必要である。これによってジャッジは非常にフローを取りやすくなっていた。
チームは大会出場9年目で初優勝を遂げ、彼は、最優秀ディベーターとなった。
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私は勝手に
(種が一つの花を咲かせたな)
と思っていた。
早稲田大学高等学院には、私の教え子も進学している。
彼と彼らの中学校時代の活躍はここ。
そして、彼が盛り上げて、全国大会の準優勝までしている。
その彼の蒔いた種が、一つの花を咲かせたなあと思ったのである。もちろん、実際は現役の生徒と指導者が咲かせたのである。しかし、こうして、その花を別の角度から見ている人もいるんだなあと、思う。
来年でディベート甲子園が始まって15年か。すごいなあ。一つの時代に生きているんだなあと思う。
また、
(顧問ていいなあ)
と早稲田大学高等学院のM先生を見ながら、久しぶりに思った。
生徒との良い距離感の中で、先生も生徒もとても幸せそうであった。
M先生、おめでとうございます。
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打ち上げを終えて、ホテルに戻ると嬉しいメール。
採用試験の一次試験合格の連絡が二つ。
よし。
二次試験もしっかりな。
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寝ているときにまた、地震。
夢の中では、たき火から背中に火がついてしまい、慌てて転がり回って消しているところだった。
(あれ? これ私が動いているのではない。動かされている)
と思って目が覚めたら地震だった。
最近の建物は、地震のときに揺れるように出来ているとのことだが、やっぱり気持ちのよいものではない。
明日から始まる、授業づくりネットワークのためにもう一度しっかりと寝直す。