立て続けに中学校時代の教え子から連絡が入る
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立て続けに中学校時代の教え子から連絡が入る。一人は、フランスから。もう渡仏して五年になる。フランス人のご主人と一人娘と幸せそうに暮らしている写真が、フェイスブックに上げられている。
(少しずつ、お母さんに似て来たなあ)
とその写真を見て思う。彼女の娘が彼女に似て来たのではなく、彼女が彼女の母親に似て来たと思うのだ。彼女も、彼女のお母さんも良く覚えている。担任もしていないのに良く覚えているなあと自分でも不思議だが。ま、一校目の学校だし、いろいろあったので覚えているのかなあ。でも、そんなことを思いだせるのだから、ありがたいことだ。
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もう一人は、大学院博士課程に進学したと言う教え子から。中世スイスの外交史を研究していると言う。日本中で、世界中でいったい何人が研究していると言うのだ(笑)。私が出演したTVを仲間が見ていて、それでいてあれこれ検索してメールを送って来たというのだ。
彼女のことも良く覚えている。
私は「アンソロジーノート」という実践を現場にいるときにずっとやっていた。授業の開始の5分から10分で、その日に応じた、詩、短歌、俳句、小説の一部、名言などを黒板に書いて、それを専用のノートに書き写させるのだ。
硬筆の書写をする帯単元であり、言葉の種を子どもたちにプレゼントする時間でもあった。
短歌、俳句は季節感がとても大事なのに、教科書の単元で教えると、夏に冬の作品を教えるなんてことも平気である。これはなんとしても避けたかった。その季節に応じた作品を届けたい。
そのために、作品をMacに打ち込んでファイルメーカープロで管理して、季節や天気、さらには書式やテーマなどのタグを作って、その日に一番適した作品を瞬時に選べるデータベースを構築して授業で使っていたのだ。定期考査では、その中から気に入ったもの一つを暗記して書くという課題も出していた。
この中世スイスの外交史を研究している彼女は、このアンソロジーノートで一番長い作品の一つ「ネロ」を暗記して書いたのを覚えている。
『二十億光年の孤独』より引用開始 ーーーーーーーーーー
谷川俊太郎 - ネロ(愛された小さな犬に)
ネロ
もうじき又夏がやってくる
お前の舌
おまえの眼
お前の昼寝姿が
今はっきりと僕の前によみがえる
お前はたった二回程夏を知っただけだった
僕はもう十八回の夏を知っている
そして今僕は自分のや又自分のでないいろいろの夏を思い出している
メゾンラフィットの夏
淀の夏
ウィリアムスバーグの夏
オランの夏
そして僕は考える
人間はいったいもう何回位の夏を知っているのだろうと
ネロ
もうじき又夏がやってくる
しかしそれはお前のいた夏ではない
又別の夏
全く別の夏なのだ
新しい夏がやってくる
そして新しいいろいろのことを僕は知ってゆく
美しいこと みにくいこと 僕を元気づけて くれるようなこと 僕をかなしくするようなこと
そして僕は質問する
いったい何だろう
いったい何故だろう
いったいどうするべきなのだろうと
ネロ
お前は死んだ
誰にも知れないようにひとりで遠くへ行って
お前の声
お前の感觸
お前の気持ちまでもが
今ははっきりと僕の前によみがえる
しかしネロ
もうじき又夏がやってくる
そして
僕はやっぱり歩いてゆくだろう
新しい夏をむかえ 秋をむかえ 冬をむかえ 春をむかえ 更に新しい夏を期待して
すべての新しいことを知るために
そして
すべての僕の質問に自ら答えるために
引用終了 ーーーーーーーーーー
私が中学校時代に感銘を受けた詩で、自分の結婚式のときにも使った詩で、中学生に是非プレゼントしたいと思っていた詩なので、この詩は一時間かけて、黒板三枚を使ってひたすら書き続け、生徒はひたすら書き写し続けるという書写の時間としてやっていた。
そして、彼女はこの作品をテストのときに答案用紙の裏側にびっしりと書いて来たのだ。勿論このときの経験が、中世スイス外交史に繋がったと言う話ではない。そんな単純ではないだろう。だが、連絡を貰った私は、そこが繋がった。
夏に学会で京都に来ると言う。
久し振りに会えそうだ。
夏の楽しみが一つ増えた。
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