秋の日のヴィオロンの
10/31
中学校の教師の時代にずっとやっていたことは、実はそんなにないかもしれない。生徒の様子を見て、あれこれ一番良いものは何かと考えてやっていたので、一貫してこれというのは、実は書写とこれぐらいしかないかなあとも思う。そのこれとは、「アンソロジーノート」である。
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俳句の授業をするとき、季節に関わらず四季それぞれの俳句を教科書に従って教えるのが、どうもすっきりしなかった。勿論短歌も。折角日本には四季があるのにまとめて教えるのは勿体ないなあと思っていた。
そんなことを思っていたら、高校のときの日本史の先生、増田先生のことを思い出した。それが大学生で塾の教師をしているときのこと。増田先生は、ロシアに抑留されこれからの日本を担う若者をきちんと教えるには歴史だと、歴史の先生になられた方だ。
私がであった高校三年生のときは、脳梗塞の後遺症があり、片足を引きずり言葉もうまく出ない感じであった。にも関わらず、休み時間は教室にいないで、階段の踊り場で次の授業を待っていられた。職員室に戻ると授業開始に間に合わない。かといって、生徒の休み時間の中にいるのも、すまんと思ったのであろう。だから、踊り場にいらっしゃった。
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その増田先生がされていたのが、「今日は何があった日なのか」という授業の導入であった。黒板の右の上の所に、近現代の日本史に関わって、今日は何があったのかをそこに書き、導入の5分、10分で語られていた。
日本史では近現代史を扱う時間が本当に少ない。しかし、教えたい。それも実感を伴わせて。恐らく先生がお考えになっていたのはそういうことだと思う。私たちはノートにそれをメモしながら聞いていた。
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日本史にそれほど興味のなかった私だったが、これが私の授業に残ったのだと思う。そのシステムを使おと思ったのだ。で、塾の教師のとき、毎週やる漢字テストの裏側に、その季節、その時の事件に関わって関連のある、詩、短歌、俳句、名言を書いて生徒に渡すようにしたのだ。
これが結構好評だったので、私も気を良くしてずっと続けていた。別にそんなに難しいことではなかった。高校生のときから気に入った言葉を書き写していたノートがあったので、その中から捜して、合ったものを書いていったので。
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で、中学校の教員になったとき、同じことを始めた。
授業の最初に、今日の詩、短歌、俳句ということで紹介した。それを書くための専用のノートを用意させた。アンソロジーノートである。三年間教えると、200位の作品を教えることができる。
不易流行である。
不易の言葉と流行の言葉がある。
流行の言葉は、生徒が勝手に身につける。しかし、不易の言葉は教え込まないと身につけない。そして、不易の言葉は中学生には良くわからない言葉である。
だから、私が、
『いいから覚えろ』
と言って彼ら彼女らの身体に埋め込んでいった。定期考査のたんびに、覚えさせた。
時間のフィルターを経て残っている言葉は、中学生にそのときに分からなくても、必ずその子どもの人生の過程でなんらかの意味を持つはずだという思いを持っていた。
宝の言葉を彼ら彼女に埋め込めば、やがて輝きだすと思って教え込んでいた。
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今日、研究室から奇麗な夕焼けが見えた。
写真を一枚とって、
「秋の日のヴィオロンの」
とキャプションをつけた。
そしたら、N中の卒業生がtwitterで、Z中の卒業生がFBでコメントをしていた。次のフレーズが出てきたというのだ。彼女らの身体の中には残っていたのだ。上田敏が訳したの『海潮音』の「落葉」である。
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こんな報告が聞けるのは、やはり一つの教師冥利だなと思う。
そして、増田先生にありがとうございます、と生徒として思うのだ。
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コメント
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そうだったのか〜!あのノートはアンソロジーノートと言うんですね…。今までずっと詩のノートと言ってました(*^^*)
青梅→和歌山→大阪と、共に引っ越しをして今でも宝物の1つとして手元に全てありますよ。
久しぶりに読み返したくなりました。
ところで、唐突な質問なんですが、2月に滋賀へ雪見旅行をしたいのですが、お薦めスポットはどこですか?
余呉で行きたかった旅館が利用できなくて(-_-;)
滋賀は行ったことないので、地理もよく解らず、とても悩んでいます。
投稿: 真由美 | 2011/11/02 02:30
ここにもいたか(^^)。
このノートは捨てられないでしょ。
雪見だとすると、長浜とか彦根の方が良いでしょうね。
大雪になる所です。
投稿: 池田修 | 2011/11/02 05:55