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2012/03/01

『大人の流儀』(伊集院静 講談社)

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大人という言葉が本のタイトルにあると、つい買ってしまう。
教師になった年に、
「先生、大人ってなんですか?」
と中学校一年生に質問され、うまく答えられなかった。
三ヶ月待ってもらって、その後「大人とは何か?」という授業をした。
それから25年以上、ずっと大人とは何かを考えている。

そんなわけで手にしてしまった本がある。
『大人の流儀』(伊集院静 講談社)である。因に『続 大人の流儀』もある。

伊集院さんは、夏目雅子さんのご主人であったということ、「ギンギラギンにさりげなく」の作詞者であることぐらいしか良くわからず、気にはなったが読まないでいた作家である。最後の無頼派と言われる作家であるからして、破滅、堕落の願望のある私が読むと、もう戻れない世界に連れて行かれてしまうかもしれないという思いがあったのかもしれない。

しかし、大人研究家としては読まなければなるまいと思って読んだのだが、これがいい。
グイと掴んでくる。

山口瞳『酒呑みの自己弁護』、
遠藤周作『我が青春に悔いあり』、
高橋義孝『大人のしつけ紳士のやせ我慢』、
畑正憲『無頼の船』、
沢木耕太郎『深夜特急』、
藤沢周平『蝉時雨』。

もう良いだろう。この辺りの系譜にハマった。

「40歳を過ぎたら、その後の人生は自分の人生に注釈を付ける作業をするためにある」

という言葉をどこかで読んだ。ちょっと早くないか?と思いながらも、初老とは40歳の事であり自分の人生がどんな意味を持っていたのかを考え始めるにはいい年齢なのかもしれない。

私は偶然、この「大人とは何か?」という素晴らしいテーマを手に入れ、これに寄り添いながら本を読み続けて来た。大人にはなりたくないという思いを持つ青年期に、

(どうやら、俺も大人にはならざるを得ないらしい。だとすれば、つまらない大人にはなるまい。かっちょエー大人になりたい)

と佐野元春の「ガラスのジェネレーション」を聞いて思った。
さて、今かっちょエー大人かどうかは別にしても、そうなりたいと今でも思っている。

「大人にとってはずかしいことのひとつに迂闊な行動をすることが挙げられる。
相手が悲しみの淵に、喪に服しているのにも気付かず、礼を外す態度を取ることが人間にはある。
世の中というものは不幸の底にある者と幸福の絶頂にある者が隣り合わせて路上に立つことが日常に起こるものだ。
だから大人はハシャグナというのだ。」『続 大人の流儀』154p

そういうことだ。
こういうことが普通にできる大人がかっちょエー大人であり、これをきちんと文章に表せるのが、大人の文筆家なのだと思う。

伊集院さんの半生は、多くの男が憧れるのではないだろうか。

破滅と、堕落の中でのたうちまわりながら、美しく優しい女性に愛され、別れる。酒とギャンブルもそれこそ半端ではない。そうして生き苦しみつつあるのが彼の人生だ。この本は、その自分の人生に注釈を入れる作業を進めている本のように思えてならない。

彼の小説にも手を出してみようかなあ。

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コメント

伊集院静といえば、僕は「機関車先生」です。
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784167546137

DVDも出ていて、これがいい映画で・・・。
教師・新任・剣道・・・
と僕の心を打つものばかりでした。

初任の頃読み、そのあと立ち直りました。

ぼくを変えた一冊です。

あ、それ読んでいた。
だけど、響かなかったなあ。
忘れていた位だから。
すまん。

伊集院ファンです。
大半の男は憧れるのでは…
この頃,真面目に?仕事をしだして露出が多いのはなんとなく気になりますが…。
文庫本は大半を読んでいます。お薦めは長編としては「羊の目」でしょうか。短編は,みんなそれなり?です。

そうですか、先生はファンなのですね。
先生のような読書家がはまっているのですから、これは期待します。

私はなんとなく「なぎさホテル」から読もうと思っています。あの湘南、葉山の雰囲気を知っているので。「羊の目」も楽しみにします。

ありがとうございました。

いえいえ・・。
実際、僕の場合は「機関車先生」は映画に心打たれた気がします。

坂口さんだっけ?
更に済まん。その映画を見て駄目だったんだf(^^;。

わー(笑
まあ、そういうこともありますね。

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

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