MEISTER STUCK NO.149
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MEISTER STUCK NO.149
私たちの世代にとっては憧れの一品だ。
モンブランの最高峰の万年筆。
まだワープロが出現する前、作家は万年筆で執筆していた。
ウオーターマン、ペリカン、モンブラン。
舶来ものはこういうメーカーが人気で、私はその当時ハマりハマっていたムツゴロウこと、畑正憲さんがこのMEISTER STUCK NO.149で原稿を書いているのを知って、いつか自分のものにしようと思った。
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20年前に買った。
新婚旅行のお土産で、買った。
私のはこれだけで良いからと言って買った。
それ以来、書斎から持ち出すことはせず、主に手紙と通信簿を書く時だけに使って来た。
嘗て、学級通信にこの万年筆のことを書いたことがある。
引用開始 ーーーーーーーーーー
人は何故、働かなければならないのか? そもそも働くってなんだ? 答えはいくつもあると思う。ただ、自分が納得する答えはそんなにはない。その自分が納得する答えを得るきっかけの最初の体験が、今回の職業体験である。
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写真は、君たちの答案を採点する万年筆と通知表を書くために用意している万年筆である。新婚旅行の時、
『オレのお土産はこれだけで良いから買わしてくれ』
と言って成田空港の免税品店で買った一品である。
特に通知表の万年筆は、私の大好きなムツゴロウさんが、原稿を書くときに使っている万年筆で、中学時代だからあこがれていた一品である。
この万年筆の調子がちょっと悪かったのだが、近くのデパートに万年筆クリニックが来たので見て貰うことにした。
◆
『この細いのは採点用に使うんです』
使い道によってペン先の調子を変えてくれるというので用途を話した。すると、
「司法試験では一時間に千八百字書くんだよね。採点ではだいたい千六百字。このぐらいの軸の細さだと先生は、採点だけして疲れてしまうよ。太い方がいいね。そして、疲れなかった分で、頑張った子どもたちに「頑張ったね」と書いてあげてね」
と教えてくれた。
もう一本の万年筆の調子を見終えた時、
『こっちの万年筆は、通信簿を書くときに使うんです』
と言ったところ、
「あ、ちょっと貸して」
と、もう一度調整に入ってしまった。
◆
「はい」
と渡された万年筆の見た目は何も変わったところはなかった。
「通信簿だと細かい数字も書くでしょ。その時は裏返して書いてみてね」
と言われる。
万年筆ではやってはいけないとされているのが、この裏返して書くということなのだ。これをやると一発でペン先の調子が壊れる。それを専門家がやれと言う。おそるおそる書いてみる。
(え?)
書けるのである。
「先生は、通信簿で細かい数字とかも書くだろうから、裏側でも書けるよう研いでおいたよ。先生が気持ちよく書けると、子どもたちにも沢山書けるでしょ。僕は勉強が出来たなかったけど、先生の言葉が多いと嬉しかったんだよね」
七十歳を有に過ぎた万年筆のお医者さんは仰った。
◆
諸君のことなぞ絶対に知らないこの万年筆先生は、その諸君のために万年筆の調整をしてくださる。これが「仕事」なのだと思う。
引用終了 ーーーーーーーーーー
この太い万年筆が、MEISTER STUCK NO.149であり、この万年筆のお医者さんが、ペン先の神様 現代の名工 長原宣義さんである。
◆
で、昨日軸が壊れてインクが漏れるようになってしまったMEISTER STUCK NO.149が、修理から戻って来た。勿論、モンブランのロイヤルブルーのインクを沢山吸い込ませて、昨日今日は、もうあれこれ書きまくった。
ペン先が見事に調整されているこの一本は、なんとも心地よい。
良いものを大事に大切に使う。修理しながら使う。
これを書いていたら、長原さんがおっしゃっていた言葉をもう一つ思い出した。
「先生、この万年筆はね、先生の子供の子供の子供ぐらいまで使えるよ。大切に使って下さいね」
20年間は、約束を守れたと思う。
これからも門外不出で、大切に使おう。
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