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第12回関西授業づくり研究会に参加。今日はガンホーの方が来て下さって、パズドラなどに関わってのあれこれのお話を聞く。
いつも思うのだが、企業の方は丁寧だ。そして、
(をい、そこまで話してしまっていいの?)
と思うような事も話してくれる。
それが研究会に参加する事の醍醐味なのだが、この研究会は特にその傾向が強い。
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パズドラは、私もだいたい一ヶ月間だけやった。
私が気になるのは、何が子ども達を楽しませているのか。何が子ども達を填めているのかと言うこと。つまりは、ゲームのアイディア、設計、ゲームバランスなどを中心としたゲームデザインだ。
時代によって天才が集まる所が違う。
日本で言えば、昭和の初期は、落語に集まっていたと思う。映画の時代もあった、テレビの時代もあった、演劇の時代もちょっとあった。そして、いまはコンピュータゲームの周辺にこの時代の天才達は集まっていると思う。
ま、落語だけはちょっと別かもしれないが、この天才の集まる所は一人の天才が何かをするということではなく、作品を作ることに掛けていろいろなジャンルの天才達が集まって、チームワークで作り上げていく。今日のガンホーの担当者の方のお話を聞いていると、それを改めて思う
以下、書いても良い話の中からいくつか。
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「ライバル会社はどこですか?」
という質問が会場からあった。その答えが面白かった。
「ライバル会社は特には無いんです。一つのゲームが売れるとき、ゲーム業界はみんなで元気が出るからいいんです。問題は、ゲームをしなくなるということです。だから、ライバルは、今年で言えば『半沢直樹』でした。40%の人がテレビに齧りついていたわけです。その時間はパズドラをやってくれないわけです。これは困る。だから、「半沢直樹」がライバルです」
これは、非常に面白く痛い所をついている。
研究会が終わって駅に向かうときに藤川さんとも話したのだが、ネット、コンピュータがますます発達していくこれからの時代は、時間の取り合いになるということだ。ガンホーは『半沢直樹』がライバルだと言ったが、実は教育にとっては、ガンホーがライバルなのだ。勉強の時間にパズドラが食い込んで来てしまえば、子ども達は勉強をしない。
この現状に対して、「パズドラが悪い」ということを言い続けるだけの人が教育界には多すぎると考えている。なにもパズドラが悪いんじゃない。スーパーマリオブラザーズが出たときからこれは始まっている。ドラクエでもそうだ。パズドラはiPhoneやiPod touchでできるので、いつでもどこでもできる事になっているが、それがこの「パズドラが悪い」の議論の根っこではないと私は考えている。
問題は、パズドラより面白い授業が作れていない所にあるのだ。私はそれをドラクエ3をやった25年前に感じていた。だから、
『私の授業は、ドラクエがライバル』
と言っていたのだ。これを言うと学生達は最初は笑う。しかし、私は続けて聞く
『ムシキングをやるためにゲーセンで100円玉を握って並んでいる子ども達を見た事があるか。君の行う授業を、君の教え子達は100円玉を握って、教室に入る為に廊下に並んで待っていると思うか?』
と。
ドラクエよりも面白い授業、楽しいクラスを作らなければ子ども達は、学校にやってこようとは思わない。学校には親の顔を立てるため、または、おつきあいで来てくれていると考えた方がいいのだ。100円玉を握りしめてムシキングをするために並んでいる子どもたちの顔を見よ。ワクワクしながら待っている。あの顔が私たちの授業が始まる前にあるか。100円玉を握って受けたいと思わせているか。それを考えるのだ。
ゲームの力は強い。それがコンピュータのプラットホームを手に入れてますます強力になり、スマーフォフォンでさらに強くなった。ライバルはドンドンイノベーションを繰り返し進化しているのに、授業と言ったらさて、どうなのだろうか。
いや、待ってろよ、変えてやるからな。
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「課金は塾です」
と講演の中で話されていた。パズドラの課金制度のことである。この課金については色々と問題があるようにも書かれているが、今回の話を聞いて非常によく考えられているシステムだと思った。
まず、良く知られているようにゲームそのものは課金する事無く進める事は出来る。そして、課金してアイテム(魔法石)を沢山手に入れたとしても、経験値が上がらないと手に入れたドラゴンは使いこなす事が出来ない。これを例えて課金は塾だというのだ。
つまり、塾に行かなくたって高校に合格する子どもはいる。だが、お金を払って効率的に塾で勉強をして高校に合格する道もある。どちらの方法を採るかは自由。だが、どちらの方法を採るにしても、努力をしなければ高校には入れないのである。パズドラは、課金で魔法石を手に入れても、それだけではゲームを進める事が出来ないデザインになっている。そして、そのデザインの検証をガンホーの中のパズドラ開発スタッフたちが楽しみながらやっていると言う。
これは、なかなかいいなあと思った。
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時間というかスピード感というか。
世の中が猛烈なスピードで変化し、それこそ10年後にはiPhoneがあるかどうかわからない世界になっている。どんなデバイスが出てくるかわからない。しかし、今よりも簡単で今よりもエキサイティングなものが生まれて残っていくだろう。
そんな中で、全く変わらない授業がまだある。
子どもが手を挙げ、手が挙がったところだけ発言させなんていう授業だ。
教室全面をホワイトボードにし、思いついたら書き込む。または、手元の端末で書き込んだ物が、プロジェクターで投影される。子ども達も教師もそれを見ながら、授業をドンドン進めていく。そんな授業はなぜ作れないのか。
勿論、じっくりと考えなければならないこともあるだろう。それはそうだ。
しかし、ドンドン数をこなして定着させる事までもじっくりやらせる必要は無い。15秒、30秒のCMで育ち、ザッピングが当たり前で、140字で流れる情報を読み取る彼ら彼女らが身につけた情報処理能力は相当なものだろう。ここにじっくりとゆっくりとでは、なんというか、フェラーリを渋滞の首都高速で走らせているような物だと思うのだ。
私たちは、ひょっとしたら、じっくりと考える事が許されない時代を行き始めているのかもしれないと思う。コンピュータのCPUがこれだけ高速処理を可能を可能にして来たことは、人間にもそれを求めて来ているのかもしれない。
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未曾有の時代に突入している事を、毎回実感する研究会だ。
そして、そこを生きていく子ども達を教える先生を育てる仕事をしている私は,毎回、うしゃああああと思うのであった。