『子どもの頃から哲学者』(苫野一徳 大和書房)を読み終える
『子どもの頃から哲学者』(苫野一徳 大和書房)を読み終える。
若き哲学者、苫野一徳さんの半生を振り返りつつ、哲学との出会い、哲学との格闘、哲学による救済をユーモアたっぷりに書いた本だと言える。
このユーモアは、潜り抜けてきた人にしか書けないユーモアだなあと思う。また、潜り抜けてきた人が読めば、単なる笑いではなく、読者のヒリヒリとした悲しみの傷跡を思い出させる笑いだということがわかる。
本書は、苫野さんが哲学を通して死と再生を繰り返しながら成長していった記録である。成長の過程で出会う哲学者の考えによって、苫野青年は、魂の死と再生を繰り返す。その記録は、哲学の紹介にもなっている。また、後期青年期の発達課題へのヒントにもつながっている。
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音楽、宗教、哲学と変遷を経ながら、承認欲求という人間の根っこにあるどうしょうもない業を受け入れていく、乗り越えていく様子が描かれている。
生物学には、「個体発生は系統発生を繰り返す」という仮説がある。この本を読んでいると、それは精神にも同じことがいえるのではないかと思える。
ストア主義から始まる承認欲求への解答のあり方は、ヘーゲルを通して学べ、デカルト、カント、フッサールなどを経ながら、相互承認へと導かれていく。この流れの中に苫野少年、青年は「個体発生は系統発生を繰り返す」ように成長していく。
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実を言えば、私だって多少はここに描かれている悩みや苦しみを少年、青年時代には体験している。しかし、私は哲学に向かわなかった。教育に向かった。教育実践に向かった。
(それはなんでだったかなあ)
なんて思いながら、読み進めた。
青年期に突入する若者も、青年期を終えた若者だった者にも、おすすめである。
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